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ジャック・ル・ゴフ(Jacques Le Goff, 1924年1月1日 - 2014年4月1日[1])は、現代フランスを代表するアナール学派の中世史家。
経歴[編集]1924年、南フランスのトゥーロン生まれ。パリの高等師範学校 (ENS Ulm)に入学し、プラハのカレル大学、イギリス・オックスフォード大学リンカン・カレッジ、ローマのフランス学院へ留学。1950年、高等教育教授資格試験に合格し、このとき、フェルナン・ブローデルやモリス・ロンバールが審査委員を務め、これがアナール派の歴史家たちとの最初の出会いであった。1954年、リール大学文学部助手。1959年、アナール派が中心となって組織されていた国立高等研究院 (EPHE)第六部門に入り、以後、リュシアン・フェーヴル、マルク・ブロック、フェルナン・ブローデルらのあとを受け、アナール派第三世代のリーダーとして活躍した。
1969年、ブローデルのあとを受けて、エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ、マルク・フェローとともに『アナール』誌の編集責任者。1972年、ブローデルの後任として第六部門部長。1975年、高等研究院第六部門を国立社会科学高等研究院 (EHESS)として独立させることに指導的な役割を果たした。1992年に退官した後も、精力的に執筆活動を続けた。2004年ハイネケン賞、2007年ダン・デイヴィッド賞受賞。
1977年に来日し講演・講義したことがきっかけで、アナール学派の日本語訳紹介が本格化した。
2014年に死去。90歳没。
著書(日本語訳)[編集]本書は、中世研究の重要な著作を多く世に問うているジャック・ル・ゴフ氏の新しい著作である。
邦題は『絵解きヨーロッパ中世の夢』だが、原題は『中世の英雄と驚異』。中世ヨーロッパで有名だった伝説的英雄や、
豊かなイメージを喚起する事物(城など)を20項目列挙し、1項目につき1章を割いて紹介している。
どのような観点から中世の人物、事物を論じたかは序文に詳細に記述されているが、史実と伝説の狭間に生きる英雄、
超自然的なイメージなどが取り上げられている。紹介する項目はアーサー王、聖堂、シャルルマーニュ、城塞、
スペインの英雄エル・シッド、修道院、一角獣、アーサー王伝説の予言者マーリン、女教皇ヨハンナ、狐物語のルナール、
ロビンフッド、ロラン、トリスタンとイズーなど。これらのものが、中世に実在、あるいはイメージされ、
人物の場合は早くに伝説化していく様子を描く。更に、こうした事物が中世から近現代に至るまでに、
どのようなイメージの変化や人気度の変遷をくぐりぬけてきたかが紹介される。その多くは、ロマン主義時代に復活し、
現代の映画にまで受容されてきている。各項目を通史的に追いながらル・ゴフは、取り上げた事項が中世から現代までの
ヨーロッパ人の想像界(イマジネール)に形を変えながら、時にはマイナーになりつつも、脈々と息づいてきたさまを活写する。
誰もが知るアーサー王を始め、ワーグナーのオペラで再度有名になったキャラクターなども出てきて、
中世の代表的な人物や物などの歴史を総合的に追える便利で勉強になる一冊である。邦題通り、ほぼ全てカラーの写真満載。
《中世の想像界は歴史と伝説、現実と想像が入り乱れた混ぜこぜの世界》(p.9)であり、《中世の想像界においては、「大衆文化」というやや漠然とした表現で呼ばれているものが重要な位置を占め》(p.10)、《中世の人々はこの地上を超自然界の栄光と魅力で飾ったのである》(p.15)ということを明らかにしようと、ル=ゴフ先生みずからがコーディネーターとして案内してくれる''ヨーロッパ中世を感じる旅'≠ノ参加しているようで得した気分も味わえます。
imagenaireイマジネールという言葉を、この本では想像界と訳していますが、勝手に敷衍させてもらえれば、それなくしては当時生きていた人たちの世界観も語れない想像世界ともいう感じなんでしょうかね。さらには、映画やアニメの図版まで多数収めることで、ハリウッドなどの資本が、ヨーロッパ中世のイメージを勝手にブリコラージュしてといいますか、換骨奪胎してといいますか、時間を隔てた世界から密輸入して新しい物語やヒーローを生み出しているという構図もよく理解できます。